第一回四国総会2

大施太子、慈愛と信で大願を成就

えば、日蓮大聖人も、太平洋を眼前に望む地で、幼少時代を送られている。
経典には、海を舞台にした、次のようなドラマが展開されている。
これは、釈尊が過去世において「精進波羅密」という菩薩の修行をしていた時の物語で、要旨を簡潔に紹介しておきたい。
昔、インドに大施太子というの王子がいた(大施とは「大きく施す」との味)“なんとしても人々を幸せにしたい”との大願を立て、たゆみなく修行を続けていた。しかし、世の人々は、生活のために殺生の罪を犯している。それを嘆き悲しんだ太子は、自分の持っていた財宝を、人々に分け与える。だがついに人々に施す宝も尽きてしまった。
そこで太子は、「如宝珠」(万宝を雨のように降らし、人々の願いを満足させられる宝珠)が、竜宮城にあると聞き、「如宝珠」を求めて、はるかな竜宮城へ向う。
長くしい航海の果てに、ようやく竜宮のほとりにたどり着いた。金の砂浜、銀の峰、青蓮の池――竜宮城はおとぎの世界さながらであった。
竜王は太子の美しい銘して、最大にもてなした。そして、太子の願いどおりに、もっとも大切な「如宝珠」を与え、本国に帰してくれた。さっそく太子は、この無上の宝を用いて、人々を救済しようとした。
ところがその矢先、竜王は、周囲の者たちから激しい反発を受ける。「如宝珠は、竜宮第一の宝である。それをどうして人間にあげてしまったのか」と。
このため竜王変わりし、竜王の側にいた竜たちが、ひとたび太子に渡した宝の玉を、こっそり奪い返してしまった。太子のそれまでの労は、すべてが水の泡となった。万事休すである。
いつの時代も、中者を利用する悪知恵の人がいるものである。自分たちの利益を守るために、讒言し、策を弄し、善良な中者をおとしいれ、悪を働かせようとする。それが、人間の卑しい策謀の世界なのである。
近年の悪侶たちの策謀も、そうであった。そのために、真面目な子たちがどれほどしめられたことか。そうした策謀を、絶対に許すことはできない。


このとき太子は、一人、大海のほとりに行き、声高らかに叫んだ。
竜神たちよ、よく聞け。大ウソつきの竜王である。すぐさま珠を返さなければ、大海の水を汲み上げて、海の中の竜宮城をあらわにしてみせるぞ」と。
すると海神たちはどっと笑い、「そんなことが、できるわけがないじゃないか」と、太子をあざけった。この嘲笑に対して、太子はきっぱりと言いきる。
「私は、自然の大海よりも、もっと手強い生死のしみの大海に挑戦している。無量無辺の人々を救うことは事であるが、それを私はなそうとしている。菩提(悟り)の道を得ることも非常にむずかしい。しかし、それも必ずや成就するだろう。そうした事に比べれば、大海を汲みとることなどやさしいことだ。どうして大海を汲みつくせないことがあろうか」
指導者は、何があっても決然と進んでいかねばならない。気迫が大事である。嘲笑や迫害にひるんだり、へつらったりする弱いであると、ますます増長するものである。は、こちらが強いで進んでいけば退いていくし、が弱くなれば、ますます勢いを増して襲いかかってくるものである。
法は勝負」である。ひるんではいけない。負けてもならない。相手に財力があるから、声があるから、権威・権力があるから――そんなものは、信とはまったく関係がない。信の利剣で戦い勝っていけばよい。信の強き一が、知恵を生み、その知恵によって、一切の幸福を勝ち開いていけるのである。


太子はたった一人で、ハマグリの貝殻を手に、大海の水を一杯、一杯汲みはじめた。
「たとえ、一生で汲みつくせなくても、生々世々、私は懈怠(なまけること)しない」と、太子は誓願を立てたのである。
果てしない労作が間断なく繰り返された。昼も夜も――。こうして、7日が過ぎた。この間、梵天・帝釈などの諸天は、じっと太子の振る舞いを見ていた。そして、彼のひたぶるな願いに歓喜し、「私たちも力を合わせよう」と言って、太子の応援を始めたのである。
多くの眷属を従え、巨大な力をもった梵天・帝釈たちが、こぞって太子の味方となり、いっきょに動きだした。地道にして壮大なる太子の“挑戦”は、急速に勢いを増していった。諸天の加勢を得た太子の努力によって、さすがの大海も半分まで水が減り、とうとう竜宮の姿もあらわになってしまった。かつて太子を嘲り笑った海神たちも、驚きあわてて、天を仰いだ。竜王も大騒ぎで、「如宝珠」を太子に戻したのである。
太子の「勇猛精進」の勝利であった。「慈愛」から発した強き「一」の戦いが、ついに大願を成就させたのである。そして太子は願いどおり、万宝を限りなく人々に施すことができた。


1990-11-27 第一回四国総会 高知文化会館 全集75巻 320頁】


大事な戦いの第一波が近づいてきた。
太子のごとく「大願」を掲げ、強き「一」で間断なき行動あるのみ。
「勝利」へ「驀進」だ!