人間革命12巻より 第四回


続けます。

憂愁の章より

 「伸一、君も食べなさい」
 伸一は頷きながら、苺を頬張る戸田を見て微笑を浮かべた。
 しばらくすると、医師の木田利治助教授が往診にやってきた。戸田は診察が終わると、待っていたように木田医師にたずねた。
 「食欲がなかったにもかかわらず、お腹が張るのはどうしてですか」
 「食欲がなかったのは、肝臓の機能が十分に働いていないために、臓器に様々な影響を与え、消化器系全体の機能が障害されているからです。また、腹水が溜まるのが肝硬変の症状のひとつですが、その圧迫によってお腹が張り、さらに、食欲も低下します。でも、あなたの場合、腹水がめっきり減ってきたので、お腹が張ることもだんだんなくなりますし、食欲も出てきますよ」
 戸田は、さらに、重ねてたずねた。
 「肝硬変を治す、絶対確実な治療法というのはあるんですか」
 「絶対確実という治療法は、現在のところありません。今は安静にし、食事療法をしておりますが、この病気は、患者自身の自然治癒力をどう助けるかが、大事なポイントといえます」
 「そうすると、患者の生命力が決め手ということになりますな」
 「生命力? ……そう言ってもよいといます」
 「生命力の問題となれば、私には絶対の確信がある。まァ、命を少し延ばすぐらいのことは、私にとっては造作のないことですよ」
 木田医師は、怪訝な顔をしながら。眼鏡ごしに、戸田をまじまじと見つめた。
 戸田は、そんな木田医師の表情を見て、愉快そうに笑いを浮かべた。
 「更賜寿命といってね、すでに定まっている人間の寿命をも延ばすことが出来るのが法の力なんです」
 木田医師は、戸田の言葉を理解しかねているようだった。戸田は笑いながら、重ねてたずねた。
 「寿命を延ばすということを、医学的にはどう考えますかね」
 「老化という観点から見ますと、動脈硬化などが死を早めることにつながりますから、それらを予防することが寿命を延ばす道ではないかといます」
 「たしかに医学的には、予防ということが大事になるでしょうが、ふだんから、かなり健康に気をつかってきた人が予期せぬ病気や事故で、突然、早死にしてしまうこともある。いわば宿命ですな。それをも転換していく方途を教えているのが法です。人間の一念の転換によって、自分の宿命のみならず、環境をも変えていく力が、まことの信仰なんですよ」
 戸田はそれから、来年3に、総本山大石寺に大講堂が落成し、そこで記の式典を行うことを述べた。そして、自分はそれまでに病気を治して、元気な姿で出席し、1かにわたって総本山に滞在すると言い出した。

【人間革命12巻 憂愁の章 文庫本218頁】


闘病中も医師と「法対話」をされていたんですね。
どんな時もどこにいても、相手がいれば「法対話」はできます。
戸田先生の闘病生活を通して、学んでいきたい。


つづきます。