特別寄稿 次代を開くキーワード2


―― 四国新聞より ――

未来は人材で決まる

 四国での「大三国志展」が盛況である。その模様は、中国でも明るい話題として報道されている。文化の交流は地道であっても、人のを深く結ぶ。日中友好のカギも、相互の理解と信頼である。
 「大事を済すには必ず人を以て本となす」とは、三国志の指導者・劉備玄徳の至言であった。すべては「人」で決まる。
 経済危機に揺れる時勢だからこそ、皆で励まし合い、新たな知恵と創造力を出し合っていきたい。
 人類の頭脳ローマクラブの創立者アウレリオ・ペッチェイ博士は、私に強調された。
 「莫大な富が、我々自身の内部にあります」
 「まだ眠ってはいても、各人の内にあって活用することができる能力は、実に莫大です。我々は、これを最大の人的資源とすることができます」
 希望の泉は足下にある。要は、いかに汲み出すかではないだろうか。


郷土に貢献する「無冠の英雄」
 四百年の歴史を誇る高市丸亀町の商店街は、日本一高いアーケード・ドームなど「にぎわいあふれる商店街」として、全国から刮目される。
 変わらずの護り通すものと、勇気をもって変えるものとを見極めながら、「市民が集い憩う」街を創り上げてこられた。郷土をう情熱の勝利と、私は銘する一人だ。再開発事も、商店街の後継の青年会が中となってスタートしたと伺っている。人ので街も蘇る。
 戦後の日本の教育をリードした東京大学総長・南原繁先生も、故郷・香川県を深く愛された。引田町南野(現東かがわ市)の出身である。たびたび、帰省しては、郷里で活躍する同窓生を讃え、母校・三本高校(旧制・大川中学校)の後輩を激励してやまなかった。
 “人類の歴史は、少数の偉人や英雄によって作られるのではない”これが先生の信条であった。
 「一人一人、誠実にして勤勉、正義に味方する国民大衆によって担われ、支えられてこそ、はじめてその国の揺るぎない、悔いのない、真の歴史が創られる」と断言された。南原先生が「人間革命」という理を主張されたことも、有である。
 ともあれ、地域社会のため、人知れず貢献する無の偉人、無冠の英雄にこそ光を当てていきたい。


「人材立県」で大いなる繁栄を
 私の大切な友人に、「讃岐うどん」の麺づくりの人がいる。その秘訣を伺うと「鍛えること」という。繰り返し練り上げたうえ、何度も踏んで、食物繊維を絡ませて“こし”を強くする。
 「やればやるほど奥が深い」「作り手が成長した分、うどんも成長する」との匠の言葉が味わい深い。「モノづくり」も「人づくり」から始まる。
 香川県の3分の1の面積の国が、シンガポールである。水も資源も乏しい。民族は多様で、まとまることも大変だ。しかし、世界有数の経済先進国へ発展した。その原動力は「人材」の育成であった。国家予算に占める教育費の割合は世界2位。経済開発費を上回る。
 私がお会いしたS・R・ナザン大統領も、「人材の質」を強調された。その1つの指標として、「自分より恵まれない人々に対して、敏であれ」「助けを必要とする人々に、手を差し伸べよ」と呼びかけておられる。求められるのは「共生」の人材だ。私がシンガポールに創立した幼稚園も開園15年。人間豊かな、若き世界市民が育っている。
 壷井栄さんの作『母のない子と子のない母と』には、冬の冷たい潮風に耐えて春を待つオリーブが描かれている。小豆島を彩るオリーブの花言葉は「平和」「知恵」である。
 「教育立県」「人材立県」の香川から、「知恵の人材」が、オリーブのごとく鈴なりに実り、21世紀の大いなる平和と繁栄を築かれゆくことを私は願ってやまない。

【2008-12-17 四国新聞